で?っていう備忘録

再開です。

健全な消費に有害な心構え

書けるところまで書きます。 いっとき、「フィクションのなかで”ふつう”を書くことがいかに難しいことで、それに挑むひとは目立たないがすごいことをしているのか」を強く言う文を、よく目にしました。この褒め方は、簡単な社会認識に由来していると思われが…

奈良時代の総合情報プラットフォーム

人の”望み”の由来と構成は多岐にわたっていて、ときにはひどくこじれているから、他人はおろか自分にさえ一貫した”説明”を与えづらい。 しかもその”望み”はしばしば不定型で、無軌道で、数えきれないから、飛躍もする。停滞もする。変異もする。その度に”説…

遠距離恋愛がもたらす謎の留学感について

広義の「文化×経済」周りの本は20冊くらい読んだっぽいので、その中から5冊。 創造的破壊――グローバル文化経済学とコンテンツ産業作者: タイラー・コーエン,田中秀臣,浜野志保出版社/メーカー: 作品社発売日: 2011/05/27メディア: 単行本購入: 3人 クリック…

文化を計測するのはなぜか

1.『文化的景観を評価する――世界遺産 富山合掌造り集落の事』を読み終えた。 文化的景観を評価する―世界遺産富山県五箇山合掌造り集落の事例 (文化とまちづくり叢書)作者: 垣内恵美子出版社/メーカー: 水曜社発売日: 2005/04/25メディア: 単行本この商品を含…

「遅い男」はなぜ老いたのか

『slow man』にやって来た著者 片足をなくしたポール・レマンが介助士相手の小さな失恋を味わって、前向きに生きていくやる気を失いつつあったとき、エリザベス・コステロが彼の元に訪れる。彼女は小説家だ。ポールを主役にした小説を書いていた。かれが気を…

今はまだ力不足で書けなかった、ささやかな萌芽のほのめかし

『ねとぽよ』という電子雑誌に記事を書かせてもらいました。 「ネットの平和を守る市民団体」という自称で(笑)、スマートフォンやGoogle+を操るいまどきの若者が集まって、それぞれの得意分野への愛と知識と若さを披露し合う「場」になっています。ぼくの…

不定期開催、書きかけの卒論を晒す会(3)

卒論が書きあがりました。 来週の木・金曜日に提出です。 思ったより日が少ない。 注釈の整備や、印刷の予約をしなければなりません。 論じたいことは山ほどあるのですが、資料と時間が足りません。 もちろん筆力も充実していない。

『風流夢譚』が電子書籍化されて思ったこと

(初めての人が読むといい下知識。「嶋中事件」について) 『風流夢譚』は皇族をキャラ化して悪ノリした佳作のスプラッタコメディ。 いま読み返すと、拍子抜けするほどフォーマルだし、主題への敬意と遠慮があるし、何より技巧がある。 商品と雑談を比べるの…

不定期開催、書きかけの卒論を晒す会(2)

ここに卒論のおおまかな設計図を書いてます。

不定期開催、書きかけの卒論を晒す会(1)

久しぶりの更新です。 卒業論文を、6章立て12万字相当と計画していますが無理そうです。 ちゃんと数えなおしたらまだ6万字にしかなっとらん。 城山三郎論は、余力があれば、製本するときのおまけに使いたい。 これからケータイ小説論へさしかかります。 以…

半世紀後にはもう読まれなくなってしまうかもしれない城山三郎の「輸出」をめぐって(2)

前置きと宣伝 「はじめてのあずまん」という同人誌に、「ぼくらの町の郵便屋さん」という小論を書きました。 小説家東浩紀論です。 『存在論的、郵便的』と『クォンタム・ファミリーズ』を目印に、1980年代〜2000年代の純文学の動向をざっくりまとめた論文で…

半世紀後にはもう読まれなくなってしまうかもしれない城山三郎の「輸出」をめぐって(1)

前置き 本稿は2010年春頃に書かれました。必修演習の課題作文へ宛てたものです。 「言わゆる「戦後日本文学」から小説家を一人取り上げて自由に論じなさい」という主旨の課題でした。 大衆小説家として存命中に多くの読者に愛された人の宿命なのか、学術論文…

1920年代の文芸オタ・コミュニティに訪れた危機とはなんだったのか

夏目漱石『一夜』は失敗作か? 夏目漱石は1905年7月26日に『一夜』という小説を書いた。こんな話だ。 二人の男と一人の女が縁側で、葉巻や団扇片手に、画や夢についてとりとめないお喋りをし、「三人は思い思いに臥床に入る」。三人が寝静まると、あと…

吉野弘を「発見する」詩人だと仮定する1

講義で提出したレポートです。 ハイコンテクストでごめんなさい。以下で本文が読めます。「I was born」「素直な疑問符」(http://bit.ly/ahfnGJ) 「身も心も」(http://iori75.finito-web.com/yosino2.html) 前置き 今まで見たことがない物のかたちや姿に…

正直、じっさい、『小説の精神』>『裏切られた遺言』>『カーテン』

「論」の誕生 どんなに些細な物事についてだとしても、一群の言葉や話、お喋りの集積体は、「論」と呼ばれるようになった時、既に、大雑把な輪郭を持ち、ある程度の自立を手に入れている。「論」は、常に「もっともらしさ」と「通用する限界」を持っていて、…

「うな」とは何の謂いぞ

なんか学生が書いた未完の拙い論考が無残に晒されている「場」と化しつつあるこのブログですが、『「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために』の連載もひと段落しましたので、更新頻度をまた週一くらいに戻します。今のところ考えているのは、↓とい…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(12)

12.僕と、リービ英雄 さて、そろそろいいだろう。準備は整った。これから僕はリービ英雄を読む。この評論の一行目に書いた通りだ。つまり僕はまだ一冊もリービ英雄を読んでいないということだ。これから僕はリービ英雄を読む。そのために7つの武器を揃えて…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(11)

11.古川日出男と、リービ英雄 味も素っ気もなく言ってしまえば「ポストコロニアリズム」というのは、 「昔、(私たちの)植民地だった(私たちの)国がいままでどうなっていたかを見つつ、私たち自身、これからどうするかを考え直そう」という考え方だ。「…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(10)

10.大西賢示と、リービ英雄 僕にとって『底辺女子高生』(豊島ミホ)は、もはや小説なのかどうかわからなくなるほど優れた前衛小説だけど、この本は「エッセイ」として売られている。『巣鴨とげ抜き地蔵縁起』はもはや詩なのかわからなくなるほど優れた前衛…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(『冗談』をめぐって(後篇))(9)

9.ミラン・クンデラと、リービ英雄 この章に書かれていた文章は、先月書いた『冗談』(ミラン・クンデラ)についてのエントリ↓にもう掲載されてしまっています。(http://d.hatena.ne.jp/bartlebooth/20100504#1272948448)そこにはこういう記述があって、…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(8)

8.多和田葉子と、リービ英雄 翻訳はどうがんばってみても不自然な結果しか生み出すことができない。ただしその不自然さは、あくまでも自然現象の中に住み込み、そこにありえないねじれをもたらすような種類の不自然さだ。人工物の、人為の不自然さではなく…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(7)

7.笙野頼子と、リービ英雄 彼は、日本で「私小説」と言うと、「自伝的小説」とか「書き手がほんとうに経験したことだけを包み隠さず告白する小説」とか「実際の書き手によく似た境遇や考え方の「彼」や「私」が出て来る小説」とか「書き手の経験が小説のな…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのための(6)

6.金城一紀と、リービ英雄 4.にはこう書いておいた。「金城一紀は「insider」として日本語で小説を書くが、リービ英雄は「outsider」として日本語で小説を書く。」別に逆でもかまわない。「リービ英雄は「insider」として日本語で小説を書くが、金城一紀…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(5)

5.阿部和重と、リービ英雄 (A)「んだがら先生も気の毒でねえ。かなり喧(やがま)しぐ言わっでるみだいで、滅法カリカリしておられましたわ。大変ですわ、ああいう親戚付ぎ合いは。先生のどこほどじゃねえっすけど、うぢも似たようなごどあっから、よく判…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(4)

4.あの小説家と、リービ英雄 阿部和重の「方言」は読み手に「わからせない」ために書かれているが、リービ英雄の「方言」は書き手が歩み寄って理解するために書かれている。金城一紀は「insider」として日本語で小説を書くが、リービ英雄は「outsider」と…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(3)

3.前置き3 さて、これから僕はリービ英雄を読むわけだけど、これまでのようにリービ英雄だけを読むわけにも行かないだろう。ある小説が「マイナーの文学」であるのは他の小説との関わりのなかだけなのだ。たった一つの小説だけを極私的に読むのであれば、…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(2)

2.前置き2 本題へ入る前に、「マイナーの文学」という言葉の曖昧さ、というよりは、定めがたさについて書きたい。ひとつの言葉の使い方にいちいち立ち止まるのはまどろっこしいことだし、本題を見失いやすいし、やり過ぎると苦しくなる。だからなるべくさ…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(1)

去年、「マイナー文学論」という講義に出ていたとき書いた文章を、今日から一章ずつ、公開していきます。ぜんぶで12章。今日は、前置きを。 1.前置き これから僕はリービ英雄を読む。とはいえこれまで彼らがしてきたように、文芸評論の作法にきちんと則っ…

『ハザール辞典』ではひきこもり対策は成功しない。

その面白さをどうにかして語るつもりが、いまいちうまくいかなくて苦心しているうちに、いつの間にか話題が大きく逸れてしまって、話し手にも聞き手にもいま自分が何を話して/聞いているのかよくわからなくなる。本題を見失って、そもそもの目的も忘れられ…

深夜にすくすく育てたけのこ

ブログ更新してなくてすみません。諸連絡。 ・『冗談』論も「舞城王太郎を経由して保坂和志とけいおん!を接続する」論もまだまだ書きかけです。 ちゃんと書き終えれば卒論の設計図にもなると思うのでちゃんと書きます。 ・『ハザール辞典』の簡単なレビュー…