で?っていう備忘録

再開です。

2010-01-01から1年間の記事一覧

1920年代の文芸オタ・コミュニティに訪れた危機とはなんだったのか

夏目漱石『一夜』は失敗作か? 夏目漱石は1905年7月26日に『一夜』という小説を書いた。こんな話だ。 二人の男と一人の女が縁側で、葉巻や団扇片手に、画や夢についてとりとめないお喋りをし、「三人は思い思いに臥床に入る」。三人が寝静まると、あと…

吉野弘を「発見する」詩人だと仮定する1

講義で提出したレポートです。 ハイコンテクストでごめんなさい。以下で本文が読めます。「I was born」「素直な疑問符」(http://bit.ly/ahfnGJ) 「身も心も」(http://iori75.finito-web.com/yosino2.html) 前置き 今まで見たことがない物のかたちや姿に…

正直、じっさい、『小説の精神』>『裏切られた遺言』>『カーテン』

「論」の誕生 どんなに些細な物事についてだとしても、一群の言葉や話、お喋りの集積体は、「論」と呼ばれるようになった時、既に、大雑把な輪郭を持ち、ある程度の自立を手に入れている。「論」は、常に「もっともらしさ」と「通用する限界」を持っていて、…

「うな」とは何の謂いぞ

なんか学生が書いた未完の拙い論考が無残に晒されている「場」と化しつつあるこのブログですが、『「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために』の連載もひと段落しましたので、更新頻度をまた週一くらいに戻します。今のところ考えているのは、↓とい…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(12)

12.僕と、リービ英雄 さて、そろそろいいだろう。準備は整った。これから僕はリービ英雄を読む。この評論の一行目に書いた通りだ。つまり僕はまだ一冊もリービ英雄を読んでいないということだ。これから僕はリービ英雄を読む。そのために7つの武器を揃えて…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(11)

11.古川日出男と、リービ英雄 味も素っ気もなく言ってしまえば「ポストコロニアリズム」というのは、 「昔、(私たちの)植民地だった(私たちの)国がいままでどうなっていたかを見つつ、私たち自身、これからどうするかを考え直そう」という考え方だ。「…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(10)

10.大西賢示と、リービ英雄 僕にとって『底辺女子高生』(豊島ミホ)は、もはや小説なのかどうかわからなくなるほど優れた前衛小説だけど、この本は「エッセイ」として売られている。『巣鴨とげ抜き地蔵縁起』はもはや詩なのかわからなくなるほど優れた前衛…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(『冗談』をめぐって(後篇))(9)

9.ミラン・クンデラと、リービ英雄 この章に書かれていた文章は、先月書いた『冗談』(ミラン・クンデラ)についてのエントリ↓にもう掲載されてしまっています。(http://d.hatena.ne.jp/bartlebooth/20100504#1272948448)そこにはこういう記述があって、…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(8)

8.多和田葉子と、リービ英雄 翻訳はどうがんばってみても不自然な結果しか生み出すことができない。ただしその不自然さは、あくまでも自然現象の中に住み込み、そこにありえないねじれをもたらすような種類の不自然さだ。人工物の、人為の不自然さではなく…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(7)

7.笙野頼子と、リービ英雄 彼は、日本で「私小説」と言うと、「自伝的小説」とか「書き手がほんとうに経験したことだけを包み隠さず告白する小説」とか「実際の書き手によく似た境遇や考え方の「彼」や「私」が出て来る小説」とか「書き手の経験が小説のな…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのための(6)

6.金城一紀と、リービ英雄 4.にはこう書いておいた。「金城一紀は「insider」として日本語で小説を書くが、リービ英雄は「outsider」として日本語で小説を書く。」別に逆でもかまわない。「リービ英雄は「insider」として日本語で小説を書くが、金城一紀…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(5)

5.阿部和重と、リービ英雄 (A)「んだがら先生も気の毒でねえ。かなり喧(やがま)しぐ言わっでるみだいで、滅法カリカリしておられましたわ。大変ですわ、ああいう親戚付ぎ合いは。先生のどこほどじゃねえっすけど、うぢも似たようなごどあっから、よく判…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(4)

4.あの小説家と、リービ英雄 阿部和重の「方言」は読み手に「わからせない」ために書かれているが、リービ英雄の「方言」は書き手が歩み寄って理解するために書かれている。金城一紀は「insider」として日本語で小説を書くが、リービ英雄は「outsider」と…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(3)

3.前置き3 さて、これから僕はリービ英雄を読むわけだけど、これまでのようにリービ英雄だけを読むわけにも行かないだろう。ある小説が「マイナーの文学」であるのは他の小説との関わりのなかだけなのだ。たった一つの小説だけを極私的に読むのであれば、…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(2)

2.前置き2 本題へ入る前に、「マイナーの文学」という言葉の曖昧さ、というよりは、定めがたさについて書きたい。ひとつの言葉の使い方にいちいち立ち止まるのはまどろっこしいことだし、本題を見失いやすいし、やり過ぎると苦しくなる。だからなるべくさ…

「もっと評価されるべき」すべての文芸たちのために(1)

去年、「マイナー文学論」という講義に出ていたとき書いた文章を、今日から一章ずつ、公開していきます。ぜんぶで12章。今日は、前置きを。 1.前置き これから僕はリービ英雄を読む。とはいえこれまで彼らがしてきたように、文芸評論の作法にきちんと則っ…

『ハザール辞典』ではひきこもり対策は成功しない。

その面白さをどうにかして語るつもりが、いまいちうまくいかなくて苦心しているうちに、いつの間にか話題が大きく逸れてしまって、話し手にも聞き手にもいま自分が何を話して/聞いているのかよくわからなくなる。本題を見失って、そもそもの目的も忘れられ…

深夜にすくすく育てたけのこ

ブログ更新してなくてすみません。諸連絡。 ・『冗談』論も「舞城王太郎を経由して保坂和志とけいおん!を接続する」論もまだまだ書きかけです。 ちゃんと書き終えれば卒論の設計図にもなると思うのでちゃんと書きます。 ・『ハザール辞典』の簡単なレビュー…

2010年4月28日水曜3限にぼくは何を考えていたのか

ざっくり言えば、プログラムというのは、何らかの「きまり」に従って何らかの「手続き」を経たうえで、あるところは省略し、あるところは詳説した言葉の束だ。それはその界隈の人(と機械)にしか通じないけれど、使い方・読み方を仲間内で共有しておけば、…

「「「「空気」の読み方」の読み方」の読み方の[……]」の読み方 『冗談』(ミラン・クンデラ)をめぐって(中篇)

(承前)「空気嫁」とまじめに向き合うのはとても困難だ。 (前回のつづき)と、そこまでなら、大方の想像はつくでしょう。そしてこの前提に立って、「空気」や「権力」を「糾弾」したり、「離脱」しようとすることも容易い。しかしその「糾弾」や「離脱」も…

「「「「空気」の読み方」の読み方」の読み方の[……]」の読み方 『冗談』(ミラン・クンデラ)をめぐって(前篇)

まえおき 以下は、先月末に講義で提出したレポートを元に書かれています。 パラグラフの順序を変えたり、語尾をちょっと丁寧にしたりしています。 話題の中心は、その「場」の空気を徹底的に読まなければならない「場」で発せられた言葉をどう読むか、という…

『芸術企業論』(村上隆)からの引用

「勤め人の美術大学教授」が「生活の心配のない学生」にものを教え続ける構造からは、モラトリアム期間を過ごし続けるタイプの自由しか生まれてこないのも当然でしょう。エセ左翼的で現実離れしたファンタジックな芸術論を語りあうだけで死んでいける腐った…

保坂和志と舞城王太郎と空気系ライトノベルのこと2の下書き

今日は二点目。保坂和志氏の近著と舞城王太郎氏の近著に文体の類似が見られる点について。 舞城王太郎さんがこれまで書いてきた小説を読んでいると、ぼくは、ものすごく強い「不安」と「息苦しさ」と「自我」とを感じる。 それは死ぬことの不安だったり、か…

保坂和志と舞城王太郎と空気系ライトノベルのこと1

保坂和志さんがいま各所で一度にいくつも連載している文章を読んでいると、ぼくは、ものすごく強い「不安」と「息苦しさ」と「自我」とを感じる。 それは死ぬことの不安だったり、からだが衰えていくことの息苦しさだったり、「悩むな、考えろ」というちょっ…

今月の積読(随時更新・メモ・amazonでやれ)

『百』、『アミナダブ』、『白暗淵』、『国語学史』、『日本文壇史』、『紫色のクオリア』、『恐怖の兜』、『チャパーエフと空虚』、『競売ナンバー49の叫び』、『あまりにも騒がしい孤独』、『玩具修理者』、『焚火』、『人間椅子』、『カルチュラルスタ…

同時体験してしまうことの歯がゆさ

スイートリトルライズと□□□と「1Q84 BOOK3略してピストルズ(笑)」のこと。 『スイートリトルライズ』を観、読んでいます。 矢崎仁司監督作を先月観て、江國香織著作を、今週。 もっとも雑に言うとすれば、夫婦がそれぞれお互いに内緒で不倫をする話。 …

大きいほうが読みやすいし書きやすいな

文字サイズを変えるとどうなるかを試してみることにします。 「お亡くなりになられる」は接尾語「御」と婉曲動詞「亡くなる」と尊敬の助動詞「られる」と三つも敬い尊ぶ語がくっついてて、慇懃無礼じゃないか、過剰包装じゃないか「亡くなられる」でよくない…

「『眠る男』が勝ち取った「強さ」を『ワラッテイイトモ』はどうして手に入れられなかったのか?」への前置き2

(先々週のつづき。筆者は執筆前に『日本文壇史』(伊藤整)を読み、強い感銘を受けています。第二章に出てくる「幸徳秋水」がすごく愛くるしい。彼は文系大学ならどこにでもいそうな愚痴り屋で夢見がちで感傷的な文学青年で、彼を取り巻く若い「社会主義者…

「『眠る男』が勝ち取った「強さ」を『ワラッテイイトモ』はどうして手に入れられなかったのか?」への前置き

「ワラッテイイトモ」(K・K作 2003年) キリンアートアワード2003に応募された作品。内容と手法の卓抜さから当時の選考委員に驚愕・絶賛されたものの、著作権法等への抵触が考慮され、本作のために新設された審査員特別優秀賞を受賞、上映会でも…

卒論題目候補

・「1909年は日本文学史に何をもたらしたのか」 (太宰治、大岡昇平、埴谷雄高、中島敦、松本清張、講談社がそれぞれ活躍した「場」、時代のスケッチ。前後世代との「つながり」をgraphwizで素描。) ・「1902年が日本文学史へ与えた影響の考察」 (…